「紫式部 源氏物語 巻一(まきいち)」 瀬戸内寂聴 訳 講談社文庫660円
巻一・目次 桐壺 帚木(ははきぎ) 空蝉(うつせみ) 夕顔 若紫
今年は「源氏物語」が書かれて丁度千年目に当たるそうです。瀬戸内寂聴によれば「源氏物語」はわが国が世界に誇る最高の文化遺産なそうです。面白い長編小説といえば、トルストイ「アンナ・カレーニナ」、ドストエフスキー「罪と罰」、フローベル「ボヴァリー夫人」、スタンダール「赤と黒」、プルースト「失われた時を求めて」など、これら西洋の小説より800年も前に「源氏物語」が書かれていることは驚きであり、面白い王朝華やかな大恋愛小説の傑作というのです。更に瀬戸内寂聴は、「源氏物語」を外国人が翻訳を読んで驚嘆賞賛し、日本人が「源氏物語」を知らない、読まないということは恥ずかしいことだというのです。なぜ日本人に読まれなかったのか。それは千年前の文章が難しいからです。与謝野晶子、谷崎潤一郎、円地文子の現代語訳があるのですが、それでもまだ難しい。とうとう瀬戸内寂聴は、自分でも「源氏物語」をもっと読みやすく誰でもが読めるようにしようと、10年掛かって全編をやさしく分かりやすく訳し終えたそうです。12年前のことです。ご苦労様でした。
古い昔の本は分かりづらくて敬遠しがちです。昔と今では文も、衣食住も、社会環境もいろいろな呼称も全く違うので、理解し難いのは当然でしょう。「源氏物語」より読みたい本は沢山あるのですが、しかし、寂聴女史から「源氏読まずは日本人の恥」といわれると「男の恥」でもありして、読まないわけにいかなくなりました。東山堂都南店へ出掛けました。直ぐ見つかりました。瀬戸内寂聴現代語訳「源氏物語」巻一から巻十まで、講談社文庫660円×10冊がありました。谷崎潤一郎とどちらが名訳かはさておいて、手にとってページを開くとなるほど読みやすいので買ってきました。10冊買っても読まず残しは勿体ない。取りあえず「巻一」一冊を買って読み終えたら次ぎを買うことにしました。一週間で読み終えました。
先ず感じたことは千年前の人間は性的に現代人よりも動物的で奔放な印象が持たれました。平安時代は今のように一夫一婦制ではないのです。一夫多妻制です。しかも、通い婚で夫が好きな妻の家に通うのです。喧嘩した妻や嫌いになった妻からは自然に足が遠のきます。気がすすまなくなると週一とか月一とかになってしまいます。妻が何人もいるのです。妻を沢山持つほど権勢の象徴になるのです。帝(みかど/天皇)は、後宮に何十人もの妃(きさき/妃に位あり)がいて、帝は好きな妃を自分の寝殿に呼んで気に入れば、昼夜を問わず侍女を従えて性に耽るわけです。こう書くと素晴らしいハーレムで、俺もわたしもと憧れる向きも多いと思いますが、後宮はあい競う権勢家の自己拡張運動が集中するすさまじいところでして、謀略や隠然たる迫害で妃たちが死に追いられることもある世界です。妃たちの義務の第一は、皇子を産むことです。中国には後宮3千人などとい言葉があるそうです。一人一日のペースで毎日励んでも、一回りするのに10年近く掛かります。こんなスケールの大きい男女関係にはびっくりして疑いたくなります、中国には、万里の長城という日本列島の2倍の長さに及ぶ建造物があるくらいですから、3千人があながち架空とも思えなくなってしまいます。その点では今の日本や英国の皇室は衰えたものですし、実際、世継ぎにも困るわけです。もう一つの印象は、子供を大変可愛がり大切に育てることが、今以上のように伝わってきます。千年前ですから、子供の早死にや大人の寿命も短いためでしょう、命をとても大切にすることが伝わってきます。世継ぎのこともあるのでしょう。
さて、巻一は主人公の光源氏が出生し、12歳で元服・結婚、数人の姫君などとの情交を結ぶ、18歳までが描かれています。光源氏の生涯50年余・孫の世代20年弱、合せて70年間、登場人物430人に及ぶこのスケールの大きい小説は、巻を追う毎、年を経る毎に愛と世のはかなさや煩悩が深くなっていくようです。作者・紫式部は、30過ぎの子持ちの寡婦なそうです。
次の本のいずれかを先に読んでおくと、分かりやすくすらすらと読めますよ。
・瀬戸内寂聴「源氏物語の女性たち」 NHKライブラリー 定価872円
・瀬戸内寂聴「源氏物語の男君たち」 NHK出版 定価683円
光源氏:この小説の主人公で、稀有な美男子にして、文武両道あらゆる才能に恵まれ、妖しいほど魅力的な上、人並み以上に多感好色な皇子です。
紫式部/物語作者生没年未詳(生年は978年・天保元年が通説)。平安時代中期の女性作家、歌人。源氏物語の作者。中古三十六歌仙(藤原範兼の『後六々撰』に載っている和歌の名人36人の総称)の一人。『小倉百人一首』にも「めぐりあひて 見しやそれともわかぬまに雲がくれにし 夜半の月かな」の和歌があります。藤原北家の出で、女房名は「藤式部」。「紫」の称は『源氏物語』の作中人物「紫の上」に、「式部」は父が式部大丞だったことに由来します。
瀬戸内寂聴・作家…東京女子大卒。代表作に「夏の終わり」「花に問え」「現代語訳源氏物語」など。元天台寺住職。06年に文化勲章。85歳。徳島市出身。
2008.4.30
ライター:Jean-Paul Aikawa ジャン-ポール アイカワ
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